田舎暮らしを楽しみ、地域と来訪者をつなぐ
豊かな自然と伝統文化が今なお残り、国内外からの多く観光客が訪れるようになった美山町。2021年にはUNWTO(国連世界観光機関)から世界44地域のベスト・ツーリズム・ビレッジの1つに選ばれました。
美山町では30年以上、都市と農村の交流を基軸にグリーンツーリズムやエコツーリズムに取り組み、近年ではサステナブルツーリズムの視点から美山町の観光が取り上げられることも。いずれのツーリズムのあり方においても共通することは、地域住民の暮らしが基軸となっていること。
地域住民の暮らしや、地域住民が守ってきた自然や景観そのものを来訪者が魅力的に感じ、経済効果をもたらすことで、経済の循環を図る。まさに今注目される、持続可能な社会の実現のお手本となるような取り組みを続けておられます。
国内外から注目を浴びる美山町の観光の中核を担うのが一般社団法人南丹市美山観光まちづくり協会(以下、美山DMO)です。協会職員として働く井本環さん(26)に協会での仕事や暮らしについてお話しを伺いました。
23歳で田舎に戻り、美山町で新たな人生をスタート
美山のとなり町、美山と同じく豊かな緑に囲まれた京都市京北で生まれ育った井本さん。高校入学と同時に地元京北を離れ、ひとまず京都市内での生活を始めたそうです。
美山との出会いは大学4年生、卒業後の進路に悩んでいたころ。街での暮らしを高校、大学と経験し、「やっぱり田舎に帰って自然の中で暮らしたい」という思いが強くなっていったといいます。就活時期には美山町での就職も意識していたそうですが、『田舎に戻るのは、一度街での社会を経験してからでも遅くないよ』とアドバイスを受けたこともあり、街での就職を決めました。美山DMOに転職した今でも、社会人としての働き方の基礎を学ぶことができたので、一度街の会社に勤めて良かったと感じているそうです。
就職活動を終えた4年生の夏、美山DMOでのインターンシップに参加。そこで観光案内やSNS更新などの業務を経験し、地域の魅力を自身の言葉や文章、写真を使って発信するおもしろさに気づいたといいます。「それまでふわふわと『いつか田舎で働きたい』と思っていましたが、DMOの職に関心を持つようになりました。だからインターンを終えるとき、『求人を出すときは連絡をください!』とお願いしたんです。社会人生活が2年目を迎えるころ、『空席が出たから一緒に働かないか』と声をかけていただいて、二つ返事で転職を決めました」
多様な人と関わり、観光に関わる多様な業務に触れられる仕事
2022年現在、美山DMOの正職員は井本さんを含めて2人、パートの方を合わせても2人のため、一人一人が担う業務は幅広いと語ります。
「美山DMOに勤めはじめたころ、一人あたりが携わる業務の幅広さに驚きました。観光案内やWEBサイトの運用の他にも、各地で行われる展示会や商談会でのプロモーション、訪日教育民泊の受入、インターンシップの受入、ツアー造成、地域事業者向けの講習会の企画実施…『このひとたち何でもできるんだな』と(笑) 最近では少しずつ任せてもらう業務が増えましたがまだまだ勉強不足です。学ぶべきことが多く仕事に飽きる暇がありません」
井本さんが担当する主な仕事はWEB,SNSの運用と予約サポート。
美山DMOの公式サイトである観光情報サイト「美山ナビ」の更新やSNSでの発信、ツアーや体験の予約対応、フォトコンテストの運営など、日々幅広い仕事を担当されています。
「美山DMOは就職前には想像していなかったほど、たくさんの出会いがある職場です。」お客様と地域をつなぐ仕事のため、地域の方、旅行会社の方、行政の方など様々な人が事務所を訪れるといいます。
友人を連れてプライベートで美山へ遊びに来たときのこと、地域のひとにたくさん話しかけられる井本さんを見た友人から「本当にいいところで働いているね」と言われたことが励みになっていると笑顔で話す井本さん。
「私は美山出身ではないですし、今も美山に住んではいません。だから地域の方との関係性は美山DMOでの仕事を通じてゼロから生まれたものです。それを褒めてもらえた気がしてすごく嬉しかったですし、この地域で働けて良かったと感じた瞬間でした」
若くして田舎に戻り暮らすということ
井本さんに暮らしについても伺ってみると、地元に戻ってから新しい趣味として畑作業をはじめたのだそう。
「畑をはじめて、自分の手で植えたものが成長して実をつける、それを食べることができることにすごく充実感を感じるようになりました。いつからか畑が自分のお気に入りの場所になっていて、春から秋の何もない休日はほとんど畑にいますね(笑)収穫した野菜やハーブを友達におすそ分けすると、それを使った料理やスイーツの写真を送ってくれるのもやりがいの1つです」と話す井本さん。
京北は京都市街から車で1時間ほど。街に住む友人も訪れやすく、月に1、2度友人に手伝ってもらうのも田舎暮らしの楽しみなのだとか。
「1人で黙々と農作業をしていたら、きっとこんなに熱中することはなかったと思います。自分が感じた農作業のおもしろさもしんどさも、好きなひとたちと共有できることが本当に有難いです。『この野菜を使って今度鍋パーティーしよう』、『来年はあれを植えよう』、そんな計画もみんなで立てていて、今後も楽しみです」
「実を言うと、地元に戻る前の一番の不安は友達と会えなくなることでした。実際に地元に戻ってみて、時間を合わせるのが難しく気軽に会えなくなりましたし、想像していた通り、友達との時間は圧倒的に減りました。でもこうして一緒に取り組めることを見つけることができて、前よりも確実に密な時間を過ごせるようになったと感じています」
田舎の暮らしを心から楽しんでいる井本さんだからこそ、美山の暮らしの魅力を丁寧に想いを込めて伝えられるのだと感じます。
観光が地域住民と来訪者の繋ぎ手となるために
美山に勤めて3年が経過し、多様な業務に携わる中で、地域が求めることや課題が徐々に見えてくるようになったそう。「地域の人と関わりを持てる体験の需要の高まりを感じると同時に、来訪者を受け入れる地域ガイドの養成や、予約不要の体験メニューの提供が課題だと感じます。」
来訪者と地域住民や事業者の間に立ち、美山町の魅力を伝え続ける井本さん。
普段は道の駅美山ふれあい広場内で観光コンシェルジュとしても勤務されています。 美山に訪れる際はおすすめスポットや暮らしの魅力を聞きに、一度訪れてみてはいかがでしょうか?